「自分の課題は料金提示なんですよね~。」
「先輩から説明が分かりにくいって言われました。」
「テレアポで再コール管理がうまくできていないのでアポイントが取れていません。」
こうした“部下自身が語る課題”を、皆さんはどれだけ信じているでしょうか?
実は、こうした自己申告の課題は「本当の課題ではない」ことが非常に多いのです。
育成の現場で100人以上の営業と向き合ってきた私の経験上、
自己申告の課題と実際の改善すべき課題が一致しているケースは2割程度。
つまり、8割は“ズレている”のです。
この“ズレ”を私は「バイアス課題」と呼んでいます。
■ バイアス課題とは?

バイアス課題とは、本人や周囲の先入観・主観・体験から生まれた“思い込みの課題”です。
実際の問題とは異なるにも関わらず、「きっとこれが原因なんだ」と信じ込んでしまっている課題です。
なぜこのバイアス課題が生まれるのか?そこには4つの主な要因があります。
(1) 上司の感覚指導
「俺はこうやって成功してきた」「こうすれば間違いない」など、過去の成功体験や個人的な感覚に基づいた指導が、部下にとって“真実”として刷り込まれてしまうケース。
(2) 先輩の気まぐれ思い付きフィードバック
ロープレや同行後の、その場の感覚で発されるコメント。
移動中などで行われる相談電話で言われた先輩からのコメント。
意図や背景の説明がなく、印象だけが残り、課題認知が歪んでしまう。
(3) 同僚の主観的な意見
「あの人、説明くどいよね」「ちょっと声小さいかも」などの会話が、
本人にとっては深刻な悩みとして蓄積されていく。
(4) “たまたま起きた現場の出来事”
たまたまクロージングで失注した、たまたま相手の反応が悪かった、など偶発的な体験が“裏付け”となって、
「自分にはこのスキルが足りない」と信じてしまう。
こうして形成されたバイアス課題は、表面上の行動や結果とは乖離していることがほとんどです。
■ 本人の思い込みはそう簡単には変わらない
一度思い込んだ課題は、簡単には修正されません。
人は自分の経験を信じたがる生き物です。
そこに上司や先輩、現場の一時的な現象が重なることで「これは確かに課題だ」という“確証バイアス”が働き、
思い込みが強化されてしまうのです。
この思い込みの構造を壊すのは容易ではありません。
だからこそ、育成担当者には「見抜く力」が求められます。
■ ヒアリングだけでは見抜けない
では、どうすれば本質的な課題にたどり着けるのか?
答えは、リアルな現場やトーク、しぐさをしっかりと見ることからしか気づけません。
フィードバックで大切なのは、「本人へのヒアリング」ではなく、「リアルを見た上での問題発見能力」です。
本人が「ここが課題だと思います」と言っていても、実際に現場での動きや会話、商談の流れを見れば、
「本当の課題はそこじゃない」と気づけるケースは多々あります。
■ 育成者が持つべき“2軸の解決力”

育成担当者は、バイアス課題と本質課題の2軸を並行して捉える必要があります。
①バイアス課題に共感しつつ、否定しない姿勢で寄り添う
②現場観察を通じて本質課題を見極め、ストーリーで伝える
「言われた課題も確かに一理ある。でも、実は根っこは別にあるかもしれない。まずはこっちを整えてみよう」
といったように、本人の主張を潰さずに導くことが肝です。
この“導き方”を誤ると、単なる押し付けや人格否定に聞こえてしまい、関係性が崩れるリスクすらあります。
■ バイアス課題に振り回されるな
指導者がやってはいけないのは、本人のバイアス課題に全力で付き合いすぎてしまうことです。
「本人が悩んでるから」「本人が言うんだから」と、そのまま対応してしまうと、指導の方向性もズレてしまいます。
大切なのは、あくまで本質課題を軸に育成の方針を設計すること。
そして本人には「その課題を乗り越えるための方法」を一緒に考えさせるプロセスを大事にすることです。
■ 本質課題がバイアス課題をも解決する
実は多くの場合、本質課題が解決されると、本人のバイアス課題も自然と消えていきます。
たとえば、本人が「クロージングが課題」と感じていたとしても、
実際は「初期の信頼形成ができていないこと」が原因であれば、
そこを改善することで自然と提案が通るようになり、「クロージングの弱さ」も感じなくなるのです。
つまり、バイアス課題は“症状”であり、
本質課題は“原因”なのです。
症状に対処するよりも、原因を治す。
これが、育成の本質です。
■ まとめ:課題には“見えているもの”と“隠れているもの”がある

育成において、もっとも重要なのは「課題の正確な見立て」です。
・本人の言う課題は疑ってかかること
・現場の行動を“診る”こと
・バイアス課題と本質課題を分けて考えること
・本質課題から解決すれば、バイアス課題も消えること
・本人にはストーリーで伝え、納得のプロセスを共にすること
このように、2軸で育成を進めることで、ズレのない指導が可能になります。
育成とは、本人の視点に寄り添いながらも、冷静に“真実”を見極める仕事です。
そしてその真実を、本人と一緒に見つけにいく——。
そんなスタンスを持つ育成者こそが、組織に“育つ文化”をつくっていくのです。
■ ケーススタディ:バイアス課題の現場での実例
ある営業社員Aさんは、「とにかく話しすぎてしまうのが課題です」と話していました。
本人曰く、「お客様から“話が長い”と何度か言われたことがあり、もっと簡潔に話すように意識している」とのこと。
そこで自己対策として、事前にトークを要点だけに絞り、練習を重ねている様子でした。
しかし、実際に同行して現場を見てみると、まったく違う課題が浮かび上がったのです。
彼の話が長く感じられる原因は「話す内容」ではなく、「話すタイミングと順番」にありました。
「相手が疑問を持っている段階で説明を始める」「相手が共感していないうちに商品の魅力を語り出す」など、
相手の心理段階を無視した展開になっていたために、冗長な印象になっていたのです。
この場合、課題は「話しすぎ」ではなく、「展開構成力と状況把握力」です。
それに気づいた後、商談設計の再構築を支援したところ、
結果として「話す量」を減らさずとも改善が見られ、成約率も向上しました。
このように、本人が抱える“違和感”自体は事実でも、
それをどう解釈し、どう修正するかは全く異なる視点が必要なのです。
■ バイアス課題は「成長意欲の証」でもある
ここまで読むと、「じゃあ自己申告なんて無視すればいいのか」と思う方もいるかもしれませんが、それは違います。
バイアス課題は、“本人なりに課題意識を持っている証拠”です。
この意欲や悩みを否定してしまえば、信頼関係が崩れてしまいます。
育成担当者がやるべきことは、「本人が何を感じ、なぜそう思ったのか」に耳を傾けながら、
「実はここに本質的なズレがあるかもしれない」と導いていく“伴走者”としての姿勢です。
「もしかしたら別の角度から見ると違うかも。こんな可能性もないかな?」
というように、選択肢や視点を増やしてあげる関わり方がベストです。
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